嗚呼トリ違い
ブッポウソウ
という名の鳥がいる。
森林に住み昆虫などを食べる鳥なのだが、きれいな緑色
の
鳥であり、かつてはこのトリが「ブッポウソウ」と鳴くといわれ、
その姿が美しく、かつその鳴き声も「仏、法(仏法)、僧」の
仏教の三宝を表し、仏に帰依するという意味で、非常に象徴的な
存在であった。
のだけれども。
実際にはブッポウソウは「ブッポウソウ」と鳴きません。
1935年にNHKがラジオ放送で「ブッポウソウ」と鳴いている鳥の鳴き声を
収録したのだが、この放送を聴いていた視聴者から
「うちで飼っている鳥がこんな鳴き方するよ」という連絡があった。
その鳥は実はミミズクの一種であるコノハズク
であったのだ。
鳥に関しては似たような話は他にもある。
例えばウグイスだが、緑色といえばまぁ緑色なのだけれども、
そこまで鮮やかな緑色ではない。むしろウグイス色なのはメジロ
。
その結果梅にウグイスのような、ある意味誤った表現がなされる。
(実際には花の蜜を吸うメジロが梅に止まっている)
ウグイスは警戒心が強いためなかなか姿を見ることが出来ない。
(声はすれども姿は見えず、なんて事がよくある)
ウグイスに限らず鳥の観察ってのは厄介なようで、このような
誤った観察結果が往々にして残ってしまう
ことがある。
動きは俊敏だし空も飛ぶ、おまけに小鳥だとすぐに茂みに隠れて
見つけられなくなってしまう。
すずめや鳩のように、そこらに多数いる都市化した鳥はともかく
多くの野鳥の観察はなかなかに厄介である。
声はすれども姿は見えず、が高じるとどうなるか。
トラツグミという鳥がいる。
見た目どちらかといえば地味だが、まぁ普通の鳥である。
ところがこのトリ、やっかいな行動を行う。夜になると鳴く。
そんなトリいくらでもいるだろといわれそうだが、
鳴き声がキモい。
というよりむしろ怖い。
ヒヨー ヒヨー というその鳴き声のキモ怖さは、現代のように
街灯が充実していない時代の人からしたら
「妖怪じゃ!妖怪の鳴き声じゃ!!」
というキモ怖さだったらしく、その鳴き声から想像された妖怪が
ヌエ
である。
サル顔、タヌキの胴体、トラの手足、尾はヘビという姿で、
そのキモさで人間を病気にしたり、雷獣の一種であるともいわれて
いるのだが、たかが声でここまで気持ち悪がられるとは…
キモ怖がるにも程がある。
宮沢賢治の小説に『ヨダカの星』という一遍がある。
観察不足というわけでもないが、ヨタカという夜行性のトリの
飛ぶ姿がどことなくタカに似ていることからそう名づけられた
のだろう。
ヨタカとタカは形態学的にも遺伝学的にもなんら近縁ではないけれど、
例えばハヤブサとタカあたりだったら形態学的に近縁じゃないか?と
これまでは考えられてきた。
しかしながら、遺伝学的にはハヤブサとタカはそんなに近縁でないようで
あると判定され始めている。
ハヤブサはむしろオウムに近縁
であるかもしれないのだ。
嘴とかぜんぜん違うじゃないかといわれそうだけれども、
鳥類の嘴の変異に関してはダーウィンの時代からよく知られている。
ガラパゴス島のダーウィンフィンチ
なんか島ごとでずいぶん違った
嘴に分化しまくっていて、もとが同一種といっても変化は激しい。
トリ違いを生む原因は人間の観察不足だけでなく、遺伝上の
変異なんてのもあるのかもしれない。
一見似ているけど違う鳥も結構いる。
新型トリインフルエンザウィルスの発生なども危惧されている
昨今であり、鳥の観察も存外軽視してはいけないと思う。
トリあえず日本野鳥の会には頑張ってもらいたい
、そんな季節が
そろそろやってきた、と思う。